パワーハラスメント 第5回:個の侵害

7月 17, 2026

ジェナさん(仮名)は昨年の春、日本人の夫と4歳の娘とともに日本の田舎へ移り住みました。家族は夫の両親との同居を始め、ジェナさんは新しい生活に慣れるため、日本語の勉強にも取り組んでいました。

その年の秋、義母は地域の知人から「小さな八百屋を手伝ってくれる人はいないか」と相談を受けます。義母は、ジェナさんにとって良い機会になると考え、そのアルバイトを勧めました。

ジェナさんは乗り気ではありませんでした。販売の仕事をした経験はありましたが、それは何年も前にイギリスで英語を使って働いていた頃のことです。それでも義母と店主は、「大丈夫。大事なことはメールで伝えるし、普段は他の従業員も一緒だから心配はいらない」と励ましました。

その言葉を信じ、ジェナさんは働いてみることにしました。

最初は順調でした。しかしある日、値下げする予定だった野菜の価格を変更し忘れたため、お客さんから「買ったトマトが家に帰るとすでに傷んでいた」という苦情が寄せられました。

それを境に、店主からのメールが届くようになります。

仕事上のミスや注意事項は、その都度メールで伝えられるようになりました。しかし、そのメールはジェナさんだけでなく、義母にも必ず送られていました。

小さなミスをするたびに、その内容を家族にも知られてしまうことに、ジェナさんは強い恥ずかしさを感じるようになります。職場では店主から注意を受け、家に帰れば義母からも叱責や不満を向けられる日々でした。

ジェナさんは何度も「仕事のことは私に直接伝えてください」と店主にお願いしました。しかし、その願いが聞き入れられることはなく、義母を宛先に含めたメールは送り続けられました。

その結果、ストレスによってミスが増え、ミスをするたびにまたメールが送られ、さらにストレスが大きくなるという悪循環に陥ってしまいました。ジェナさんは、自分で問題を解決するか、あるいは仕事を辞めたいと考えていましたが、義母はどちらにも強く反対しました。

このような状況が約1か月続いた後、ジェナさんはゼネラルユニオンに相談しました。

「どうしたら上司は私だけに連絡してくれるのでしょうか。何度お願いしても聞いてもらえません。」

ゼネラルユニオンは、このケースにはパワーハラスメントに該当する可能性があると考えました。

厚生労働省のパワーハラスメント防止指針では、パワーハラスメントの一類型として**「個の侵害」**が挙げられています。これは、個人情報を漏らすことだけを意味するものではありません。業務上必要のない形で私生活に立ち入ったり、本人が望まない相手に仕事上の情報を共有したりすることも、「個の侵害」に該当する可能性があります。

このケースでは、メールの送信先に含まれていた義母は職場の従業員ではなく、家族です。ジェナさんは、仕事に関する連絡は自分だけにしてほしいと繰り返しお願いしていました。それにもかかわらず、店主は義母を宛先から外しませんでした。その結果、本来職場の中で完結すべき指導や注意が家庭にまで持ち込まれ、ジェナさんの家庭生活にも大きな影響を及ぼしていました。

ゼネラルユニオンは、このような対応は厚生労働省のガイドラインでいう「個の侵害」に該当する可能性があると判断しました。

一方で、この問題は職場だけでなく家族関係とも深く結びついており、対応は容易ではありませんでした。

選択肢の一つは、現在の状況がどれほど精神的な負担になっているのかを日本語で丁寧に伝えるメールを作成し、円満な解決を目指すことです。もう一つは、今後の業務連絡はジェナさん本人のみに行うよう、店主に対して正式な申し入れを行うことでした。

しかし、ジェナさんにとって、どちらを選ぶことも簡単ではありませんでした。どちらの方法を選んでも、職場での関係だけでなく、家族との関係にも影響を与える可能性があったからです。

最終的に、どの道を選ぶかを決めるのは本人です。ゼネラルユニオンの役割は、それぞれの選択肢を分かりやすく説明し、会員が納得して選んだ道を支え、その声が職場に届くよう力を尽くすことです。

リンク:
第1回:「身体的攻撃」
第2回「心理的攻撃(マイクロマネジメント)」
第3回: 過大な要求
第4回: 雇用中編