ゼネラルユニオンは2019年5月の年次総会で全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(通称「関生(かんなま)」)支援の特別決議を採択し、同労組への未曽有の攻撃に反対し同労組を支援する諸活動に参加してきた。
同労組幹部を招いて学習会も開催し、その歴史と現状について報告を受け質疑応答も行ない、その内容を整理した記事を当組合のウェブサイトに掲載した(日本語版はここ、英語版はここ)。
新しい年2021年に入り、改めて「関生」について考え整理することは我々の運動の未来を考える上で意味深いと思われる。
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その弾圧と再生の歴史
「関生」はその結成(1965年10月)以来、激しい弾圧にさらされそして再生するという過程を何度か歩んできた歴史を持っている。払った犠牲も膨大で、その歴史の中で2名の組合幹部は会社が雇ったヤクザに殺害された。結成以来一貫して組合の先頭に立ってきた武建一・現委員長は、何度か生命の危機にさらされてきた。「関生」の歴史は、そしてその運動と組織の前進は幾度も激しい攻撃を受け、尊い犠牲も強いられながらも屈することなく、叩かれればまた立ち上がってきた歴史なのだ。
最近の異常な弾圧もまた、こうした歴史の延長線上にある。具体的に概略してみよう。
この間の一連の弾圧で、同組合からの逮捕者は89名を数えた。だが、問題は逮捕者の数の多さだけではない。
労働現場での法令遵守を点検するための2~3人でのコンプライアンス活動が「恐喝未遂」、ビラ撒きが「威力業務妨害」、子供の保育園入園手続きに必要な「就労証明書」を会社に求めると「強要未遂」など、常識では考えられない「逮捕容疑」が並ぶ。
また、いくつかの県警察本部では「組織暴力対策課」が「関生」への対応に当たっている。この部署は指定暴力団等を担当する部署である。また、弾圧に訪れた警察官自身が「上からの指示」と語っている。
「関生」自身は、言うまでもなく法務省に登記済の労働組合である。
つまり、「上からの指示」に従って、警察の指定暴力団等を担当する部署が、常識では考えられない「容疑」で組合幹部、組合員を大量に逮捕し長期に拘束し罪に問うている。
更には、組合員には「脱退しないと仕事を与えない」との脅しが絶えず加えられ続けている。
全てがかくも異常なのである。
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なぜこんなに異常なのか
我々は上に紹介した記事の中で次のように述べた。
「なぜなのか。
答は、上に述べた関生の「業界民主化」という基本方針そのものにある。この方針は、生コン産業で働く労働者の地位の向上のために大手セメントメーカーと大手建設会社とを頂点とし末端労働者を底辺とする、幾重にも重なった搾取と支配の「仕組み」(ごく少数が圧倒的多数を支配する仕組み)そのものを変えようとするものだからである。この仕組みを容認し、その枠内で「改善」を求めるのならいいが、仕組みそのものに手をつけることは許さない――ここに今回の弾圧の核心がある。」
この点は重要なので、改めて整理しよう。
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要点
我々が働き暮らしている現在の社会は「資本主義社会」である。
この社会は、できるだけ多くの利益を得ることを目指す会社がより大きな利益を求めて絶えず競い合っている社会である。それぞれの会社は、他社と争ってより多くの顧客を獲得しようとする。この会社同士の競争を具体的に見ると以下の二つの点が確認できる。
一つは、「会社同士の争いは同じ産業の中で行なわれている」ということである。例えば、食品会社は造船会社とは競争しない。同じ食品産業内の他の会社と競争する。ごく当たり前のことである。
もう一つは、この同一産業内での会社同士の競争とは、「何をめぐって争われるのか」という点である。敢えて単純化すれば、それは「安売り競争」である。競争相手より商品を安く売ることによってより多くの顧客を獲得しようとする。
まとめれば、この社会では各産業内で会社同士が日々安売り競争を行ない、そうすることによってより多くの顧客を獲得してできるだけ多くの利益を得ようとしているのである。
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どうやって
会社が「安売りして多くの利益を得る」ためにはどうしてもやらねばならないことがある。それは「コスト削減」である。「人件費削減」がその中心の一つであることは間違いない。そのために会社は労働者にこう呼びかける、「労使が協力して会社を伸ばそう」と。この呼びかけは実は、「他社との競争に勝つために低い労働条件を受け入れてくれ」というものであって、「産業内労働条件引き下げ競争」への労働者の参加を強いるものなのである。
もし、ある会社の労働組合が「自分の会社の利益を拡大し、その拡大した利益の一部を労働者に還元させることこそが労働者の労働条件を向上させる道だ」と考えているとしたら、その組合は「労使が協力して会社を伸ばそう」という会社の呼びかけに答えざるを得ないだろう。会社は「競争に負けたら元も子もなくなる。雇用さえ保証できなくなる」と言うのだ。
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別の選択肢と「関生」
「関生」は長年に渡りその活動の中で、これとは別の選択肢を提案し実践し具体化してきた。
それは:
労働者が自らを会社の枠を超えて産業別労働組合に組織し、産業内で統一要求を通じて企業間の無制限な競争を規制し、産業内労働者の労働条件の向上・平準化をはかる。また、産業内の企業間に支配関係が存在しこれが産業内の労働条件の向上・平準化を阻んでいる場合には(概ねそれが現実)、中小企業と一時的・条件的に連携して大手に対抗する。
というものだった。
これは、労働者が自らを「労働条件引き下げ競争」から解放して労働条件の向上を図る合理的な道である。だがそれは同時に、最大利潤の追求をめざす企業の論理とは相容れない。
「関生」の組合運動はここに実際に踏み込んだ。そしてその運動は実際に成果を上げ、中小業者の利益は増え、労働者の賃金・労働条件も向上した。だから現在のような異常な弾圧に直面することとなった。この弾圧の背景には、生コン・運輸・建設業界大手及び、上記の警察官が言う「上」の深い恐怖――「関生」のような運動が広がることへの――がある。
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そしてわれわれ
我々ゼネラルユニオンは1991年の創設から年を追うごとに、実際経験を重ねるごとに「自分達の運動と組織を発展させるためには産業別の労働組合として進む以外にない」との考えを強めてきた。そして、活動する主な産業は異なるが早い時期から「関生」からは様々な支援を受けてきた。
だから、労働組合としての発展の道がこの道にあるとしたら、形は異なるかも知れないが現在「関生」が受けているような弾圧に明日の我々は直面するのかも知れない。「関生」の未来はまた我々自身の未来でもある。
「関生」は、企業の利益と労働者の利益とは根本的・本質的には相容れないことを、そして労働者がどうすれば自分達の労働条件の向上を図ることができるのかを膨大な犠牲も引き受けながら身をもって示し続けてきた。
「関生」は労働組合運動の中で、これまでも今もこれからも我々の先輩であり友である。[