ある会社は就業規則で「職員が会社内において集会、演説、放送をし、または文書、図面、旗等を配付しまたは掲示しようとする場合は、あらかじめ会社の許可を受けなければならない」と定めています。同様の規則を持っている会社は多くあり「組合が社内でビラを撒くためにはあらかじめ会社の許可が必須」というのです。
本当に?
ビラ撒きは、憲法28条で保障されている「勤労者の団体行動をする権利」の一部です。そして、労働組合法によって刑事免責、民事免責、不利益取扱いからの保護を受けています(労働組合法 第1条第2項、第7条第1号、第8条)。
会社は民法第206条に基づいて施設管理権を有しており、施設の秩序を維持するために人や団体の行動を制限することが認められています。
この労働組合の権利と会社の施設管理権を巡ってはこれまで裁判も含む様々な争いがあり、その結果、重要な判断が最高裁判所によって複数示されています。
1979年12月14日判決 | 住友化学工業名古屋製造所事件 |
1983年11月1日判決 | 明治乳業事件 |
1994年12月20日判決 | 倉田学園事件 |
これら別々の事件について示された最高裁判所の判断には共通するものがあります。それは、「業務に支障を及ぼさなければ、会社の許可を得ていなくても職場内でのビラ配布は憲法と労働組合法が認めている正当な組合活動であり、したがって、業務に支障を及ぼしていないビラ撒きは、就業規則が定める手続きをとっていない無許可の行為であっても就業規則違反として処分することはできない」というものです。
こうした最高裁判所の判断に照らせば、冒頭に紹介した会社の就業規則は明らかに合理性を欠いたものです。労働組合の権利の上に会社の施設管理権を置いたいびつなものと言うしかありません。この就業規則は、労働組合の団体行動権を会社が日常的に不当に制約し侵害する源です。「会社の中では、会社が認めない限り労働組合はその合法的権利を行使できない」というのですから。
以上から、「会社の許可がないと会社の中で組合のビラは撒けないのか?」という問いへの答は次のようになります。
業務に支障を及ぼさなければ、労働組合の職場でのビラ撒きに会社の許可は要りません。
それでも会社が「止めろ」と言ってきたら、その場では争わず直ぐ組合に連絡を。組合が対応します。