その定年退職通告は「不合理な解雇」だ 

8月 7, 2021

特に大学では、多くの組合員が無期雇用契約を結んでおり、一部の大学では、この雇用保障をないがしろにするために、組合員が無期雇用契約労働者であるにもかかわらず不合理な退職の条件を設定している。定年の設定を禁止する法律はない。そして、無期雇用契約を申し込みとその権利を得る際の年齢を制限する法律もない。従って、無期雇用契約に転換した僅か1~2年後に年を設定することが合理的であると考えられる可能性は極めて低い。なぜなら、このような退職規程は、労働契約法で定められた無期雇用契約が労働者にもたらす利益、即ち、雇用の安定を損なうことになるからだ。

厚生労働省は無期雇用契約と定年の設定との関係について、以下の指針を示している。

「労働契約において、労働者が一定の年齢に達したことを理由として労働契約を終了させる旨(定年)を定 めることは可能です。  もっとも、就業規則における定年の定めについては、労働契約法第7条、第9条及び第 10 条に定められ ている就業規則法理の適用を受けるものであることに留意が必要です(※)。無期転換ルールの趣旨も踏まえ、 労使でよく話し合って十分な理解を得た上で、適切な労働条件の設定(定年の定め)をする必要があります。 ※ 例えば 65 歳で無期転換した者の定年を 66 歳とするような場合など、無期契約に転換するという無期 転換ルールの趣旨を没却させるような目的で定年の定めをすることは、法の趣旨に照らして望ましいもの とは言えません。同様に、無期転換ルールの趣旨を没却させるような目的で、無期転換時の年齢に応じて 定年が無期転換後すぐに到来するように段階的な定年の定めを設定すること(例:無期転換申込権行使時 の年齢が 66 歳の場合は定年は 67 歳、行使時の年齢が 67 歳の場合は定年は 68 歳とするような場合など) も法の趣旨に照らして望ましいものとは言えません。」

下記のケースについては、労働局とのやりとりで、一方的な退職通告は、特に無期雇用契約が数年前に付与されていた場合には、退職ではなく不合理な解雇として扱われる可能性があるという見解が示されている。

1. 経過

この大学で非常勤講師をしていたA組合員は2019年3月27日、無期雇用契約書に署名した。同組合員はその3か月前に65歳になっており、同大学の就業規則では「定年は65歳」と定めだれていた。

しかし同組合員は2019年4月にも、次の2020年4月にも、それまでと変わりなくスケジュールを渡され勤務を続けた。

しかし2020年秋、同組会員は大学から突然「来年度の契約は延長しない」という連絡を受けた。

しかし、しばらくして大学から、2021年春学期の授業に参加できるかどうか、対面式の授業ができるかどうかを確認するようにとの手紙が届いた。さらにその手紙には、彼の授業は一昨年と同じであると考えていることが書かれていた。この組合員は、組合を通じて大学に連絡を取り状況を確認したところ、6週間以上遅れて「前回の連絡は誤って送られたもので、あなたの契約は2020年度末で終了します」という返事が来た。2021年の新学年が始まるまで、わずか1ヶ月半前のことだった。

組合は同組合員の無期雇用契約に基づく雇用継続を要求し、団体交渉が開催された。

交渉の中で大学側は「就業規則にある『65歳定年』に基づく契約の終了である」、「「来年度も今年度と同じようにお願いします、と連絡したのは間違いだった」と繰り返すばかりだった。交渉の中で、65歳を超えて勤務している講師が少なからずいることも明らかになったが、この事実と同組合員への突然の契約終了通告との関係についての説明もないままであった。大学はその後、組合との解決交渉を弁護士に依頼したがこの交渉も同意に至らず、同組合員は大学の被用者としての立場で大阪労働局に赴き、「個別労使紛争解決制度」に助力を要請した。

2. 組合員の主張

同組合員は大阪労働局に文書と資料を提出し、事情聴取の中も含めて以下を主張した。

・同大学の就業規則にある「無期雇用契約転換者の定年は65歳」という一律設定は、無期雇用契約と定年との関係についての政府の指針に反している。

政府は「無期転換後すぐに定年が到来するような定年の定めを設定することは法の趣旨に照らして望ましくない」としている。本件はまさにこれに該当する。

・特段の説明もないままに2020年度まで雇用を継続し、同年度末が近づいた時期に「65歳定年」を理由に年度末退職を通告され、その後「来年度の勤務依頼」を連絡しそのまま放置した大学の混乱と無責任さは重大。

・「65歳定年」を超えて勤務している講師が少なからずいる事実、「定年」のみを理由とした契約終了通告の合理性と相いれない。

・従って、同組合員への大学の一方的な契約終了通告は「不合理な解雇」に相当し、大学はこれを撤回し、同組合員の雇用を無期雇用契約に基づいて継続し、新年度以降に同組合員が被った被害を補償せねばならない。

3. 今後

大阪労働局は「個別労使紛争解決制度」の趣旨に基づき、同組合員の主張を聞いた上で大阪労働局としての見解を大学に示し、大学側の見解を求め、労使の話し合いによる問題の解決を促した。

大学が同組合員の要求に応えない限り、組合との団体交渉が待っている。大阪労働局の関与を経て行なわれる交渉の席では、大学は2.で述べた組合員の主張と要求に対して逃げることもごまかすこともせず、誠実に対応することが求められることになる。

ゼネラルユニオンは、この四天王寺大学での件を無期雇用契約への転換と定年との関係の重要な問題として対処し続ける。進展があれば続報をお届する。