2022/7/12 「大量雇止め」について日本学術会議が声明を発表 

7月 12, 2022

2023年3月末に、全国の大学や研究開発機関での有期契約研究者・教師の大量雇止めが危惧されている。

「無期転換回避」の動きの一つである。

この問題について2022年7月12日、日本学術会議幹事会が声明を発表した。

以下、全文を紹介する。

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日本学術会議幹事会声明

有期雇用研究者・大学教員等のいわゆる「雇止め」問題の解決を目指して

令和5年(2023 年)3 月末をもって、大学及び研究開発法人などで有期労働契約により 研究・教育等に従事する研究者・大学教員等(以下研究者等)、数千名に及ぶ多くの人びと の雇用期間が終了し、相当数の方々が契約更新や無期転換を認められずに失職する可能性 が指摘されています。この問題の解決のため、政府、大学、研究機関、日本学術会議が協力 することが必要だと考えます。 

これは、平成 25 年(2013 年)4 月 1 日の労働契約法改正によって、労働契約が5年を超 えた場合に有期労働契約から無期労働契約への転換を求める権利が認められたのに対し、 さらに翌年 4 月 1 日には「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及 び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を 改正する法律」(その後、「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」に改正) が制定されて、研究者等について無期労働契約への転換をする期間が 5 年から 10 年に延長 されたことによって生じた事態です。この改正に際しては、平成 24 年(2012 年)5 月 31 日付で、総合科学技術会議有識者議員からも、大学関係者からのヒアリングなどを踏まえ、 いくつかの懸念が表明され、対応の方向性も示されていました(注1)が、来年 3 月末で 10 年 が経過して、任期満了に達する研究者等が発生することになりました。 

この事態については、大学・研究機関等において個別的に対応が進められており、一律で 無期契約への転換を認める事例がみられる一方で、無期転換の回避を目的に、労働契約の更 新を認めない(いわゆる「雇止め」)可能性もあることが指摘されています。こうした対応 の違いは、当該機関のミッション、財務能力や研究者との労働契約に関する考え方の違いな ど様々の要因で生じているものと考えられますが、個々の機関の判断と努力のみに委ねた 場合、研究というミッションに違いがないにもかかわらず機関間で取り扱いに極端な差が 生じることも懸念され、そのために生じうる知的な損失は多大なものになりかねません。 

この事態の解決を考えるにあたりもっとも重要なことは、これが個々の研究者等の労働 や生活に関わる重要な権利問題であるのにとどまらず、その抜本的な再建が急務となって いる日本の研究力強化にとってきわめて深刻な事態であるとの認識を、政府、アカデミア、 個々の大学・研究機関等が共有し、大局的観点から抜本的な解決策を見出すことにありま す。すでに進行中の研究プロジェクトの担い手が失職することによる研究の停滞等の直接的な負の影響に加えて、そもそも研究職が将来展望を抱きにくいものとなり、才能豊かな有 為の若い世代の人々が学問研究に魅力を感じず、高度な研究・教育の基盤たるべき人材の確 保に多大の困難をもたらしかねないことを深く認識することが求められています。 

すでに文部科学大臣からは、無期労働契約への転換を回避するための「雇止め」が労働契 約法の趣旨に照らして望ましくないとの判断が示されており(注2)、各大学及び研究機関な どは、そうした基本的な認識に立ったいっそうの努力を求められています。同時に、本件は、 研究者等の安定的雇用の保障と流動性の確保をはかるための適切なバランスの検討、機関 間の協力により研究者等の雇用を維持するための制度の確立、そのための財源の確保、他の 職種とは異なる研究者に固有の労働形態というものに見合った特例的な労働契約のあり方 の検討など、立法も含めて、個別機関の対応では解決しえない次元を含んでいます。 

日本学術会議幹事会は、政府とアカデミアが一体となってこの深刻な事態を解決するた めの取り組みを早急に行う必要があると考えます。そのために、政府の関係府省庁、国立大 学協会をはじめとした大学等関係団体、研究開発法人等の関係団体、個別の大学や研究機関 などの間で情報を共有し、緊密な連携のもとで事態の是正をはかるための検討が進められ なければなりません。加えて、これからの日本の学術を担う、研究者等(特に若手研究者) の働き方や処遇、キャリア形成のあり方について、広く合意形成を果たすことが求められて います。日本学術会議でも関係諸機関・組織とも協力してどのような取り組みが可能か、検 討を進める所存です。 

(注1)文部科学省ホームページ 

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu10/siryo/attach/1335760.htm

 (注2)文部科学省ホームページ 

https://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/mext_00255.html

令和 4 年 7 月 12 日 

日本学術会議幹事会  

会長 梶田 隆章 

副会長 望月 眞弓 

副会長 菱田 公一 

副会長 髙村ゆかり

第一部部長 橋本 伸也

第一部副部長 溝端佐登史

第一部幹事 小林 傳司

第一部幹事 日比谷潤子

第二部部長 武田 洋幸

第二部副部長 丹下 健

第二部幹事 尾崎 紀夫

第二部幹事 神田 玲子

第三部部長 吉村 忍

第三部副部長 米田 雅子

第三部幹事 沖 大幹

第三部幹事 北川 尚美