労組周辺動向 No.19 2017年10月6日現在

10月 9, 2017

厚生労働省によると、2016年度に36協定を労働基準監督署に届け出なかった事業場は全国で約170万事業場にのぼる。36協定を結ばずに社員に違法な残業をさせている企業や、36協定の存在を知らない企業が相当数にのぼるとみられている。

委託を受けた業者は、未届けの事業場に対して「自主点検表」を送付し、労働時間や労働条件を社員に適切に明示しているかなどの回答を求める。自主点検表を回収した業者は内容をチェックし、指導が必要とみられる事業場や回答しない事業場に連絡。事業場側の同意が得られれば、社員の勤務記録などを確認し、改善が必要なら相談に応じ、指導もする。催促しても回答しなかったり、指導に応じなかったりした事業場については、強制捜査権を持っている労働基準監督官に引き継ぎ、労働基準監督官が監督・指導をする。

来年度から3年間は従業員10人以上の約50万事業場全てに自主点検表を送付。その後、10人未満の事業場にも広げる予定だ。委託先の業者は入札で選定する。

労働基準監督官の業務の民間委託に関する議論は3月中旬、政府の規制改革推進会議で始まった。
規制改革推進会議は結局、36協定を届けていない事業場に対する自主点検表の送付・回収と指導に限って民間業者に委託することを提言した。提言内容は、ほぼそのままの形で厚労省の2018年度予算の概算要求 に盛り込まれた。

この民間委託に対しては懸念や疑問の声がある。

社会保険労務士は労働基準監督官のように企業が隠そうとする事実を見抜くのが本業ではない。自主点検表に企業がいい加減な回答をしても、気づかずに「問題なし」と判断してしまいかねず、違法状態を見逃すことになりかねない。

「社会保険労務士は労働基準署による調査の対策を企業に助言する仕事もしている。そこに労働基準署の仕事を委託して、監視強化の実効性が保てるのかは疑問だ」との懸念の声もある。

 

(2) 法人税引き下げの減税効果には疑問符―内部留保に課税検討も
日本政府内に賃上げや生産性向上を積極化する企業への減税案とは別に、法人実効税率を大幅に引き下げる案が浮上している。だが、減税効果には懐疑的な声も多い。

日本は第2次安倍政権誕生時に37%だった税率を2016年度に29.97%まで下げており、2018年度は29.74%に下げる予定だ。法人実効税率を25%程度まで引き下げを求める動きも出ている。

だが、企業がため込んでいる利益を示す内部留保は2016年度に初めて400兆円を突破。企業が生んだ付加価値のうち、どれだけが賃金など人件費として使われたかを示す労働分配率は、2017年4~6月の大企業で43.5%となり約46年ぶりの低水準に沈む。法人税減税が賃上げや設備投資の拡大に結びついていない状況が浮き彫りになっている。

そのため、政府・与党内では、利益のうち一定程度を賃上げや設備投資に回していない企業に対し、法人税を追加で課税する「内部留保課税」を検討する動きも出ている。

 

2. 法違反・闘い

(1) 東北大学の雇い止めの対象は1,140人、9割が雇用期間5年超:違法の恐れの指摘も

東北大が雇用契約の更新を繰り返してきた非正規職員を来年3月末に雇い止めにする問題で、対象者は約1,140人となることが分かった。このうち法律で有期契約から無期への雇用転換が認められる通算5年を超えて働く人は、9割以上の約1,050人に上る。

東北大には約1万人の教職員が勤め、このうち非正規は約3,700人。同大は無期転換権が生じる直前の来年3月末で、契約期間が満5年を迎える非正規を雇い止めにする方針だ。

東北大では内規で契約更新が最長5年までと定められている一方で、実際には5年超の雇用が常態化していた。同大は2004年の国立大学法人化以前から働く非正規職員ら約200人は無期転換するが、それ以外の5年超の有期雇用者は雇い止めにする構えを見せている。

同じ国立大学法人の名古屋大は、来年4月に5年超の有期雇用者約750人を無期転換の対象とする方針。名古屋大関係者は「5年超の人には雇用継続の『期待権』が発生し、雇い止めは違法だ。拒否できない状況で交わされた合意文書も無効ではないか」と指摘する。

東北大は雇い止めにする職員らを対象に来年度、職務などを制限した「限定正職員」を導入する。8月に募集を始め、試験を経て11月に合否を決めるが、採用数は明らかにしていない。

国の調査で、全国86の国立大のうち来年4月に非正規を無期転換させるのは6つ。全国大学高専教職員組合は1万人規模の雇い止めが起きると試算する。

2016年3月31日文部科学省発表の「各国立大学法人及び大学共同利用機関法人における無期転換ルールへの対応状況に関する調査結果」(日本語)

 

(2) 再雇用賃下げ裁判で札幌大が2審も敗訴して減額分支払い命令を受ける

札幌大学の教授と元教授の計14人が、定年後の再雇用で一方的に給与を下げられたとして、減額分の賃金や慰謝料などの支払いを求めた訴訟で、札幌高等裁判所は10月4日に減額分計約1億400万円の支払いを命じた1審・札幌地方裁判所の判決を支持し、大学側の控訴を棄却した。

判決によると、札幌大は2007年に定年を70歳から65歳に変更し、本人が希望すれば賃金を引き下げたうえで再雇用するとの雇用延長制度を教職員組合に提案。2008年に労働協約を締結したが、2011年に一方的に労働協約の破棄を通告し、給与支給の内規を改定したうえで、教授らの年俸を2013年4月から引き下げた。

 

 

3. 情勢・統計

(1) ドトールが非正規向け退職金制度を導入 従業員の声から生まれたもの

ドトールコーヒーは9月1日から、非正規従業員向けに退職金制度を導入した。同社によると、飲食業界で初めての試みだという。待遇改善により、長く働き続けてもらうことがねらいだ。

対象となるのは社会保険に加入し、週30時間以上勤務する従業員。同社には、加盟店も含めて約17,000人の非正規従業員がいるが、当初はこのうち直営店や工場、本社などで働く人の約330人が対象となる。

従業員は月給の10%以内で、1,000円〜20,000円までを積み立てることでき、退職時に退職金として受け取ることができる。ドトールは毎月100円の掛け金を負担する。

この退職金は、確定給付企業年金制度を利用している。年間利率が0.3%で、銀行預金より多くの利息が付く。毎月8,000円を積み立てると、10年後には約105万円の退職金を受け取ることができる計算だ。

 

(2) 非正規との給与差拡大―国税庁調査

企業の正規雇用と非正規雇用の人が2016年に受け取った平均給与の差は315万円で、4年連続で差が広がっていることが国税庁の民間給与実態統計調査で分かった。正規と非正規の格差は拡大している。

約2万1千カ所の事業所を抽出調査した。平均給与(平均年齢46.0歳)は422万円で、4年連続で上昇したが、正規(役員らを除く)の487万円に対し、非正規は172万円で、315万円の開きがあった。

正規と非正規を分けて統計を取り始めた2012年は、差が300万円だった。その後、4年間で正規の平均給与が19万円上昇したのに、非正規は4万円の上昇にとどまり、差が広がった。

「平成28年分民間給与実態統計調査結果について」(日本語)

調査結果の概要(日本語)

 

(3) AI進化しても人手不足続く? 労働力人口減で 厚生労働省の白書

人工知能(AI)やロボットによる自動化が進んでも、人手不足は解消しない――。厚生労働省が発表した2017年版「労働経済の分析」(労働経済白書)で、こんな見方が示された。自動化で働き口は減るが、それ以上に労働力人口が減るためだという。白書は、自動化で30年に就業者が今より161万人減るとする経済産業省の試算を紹介。そのうえで、技術者や介護職など専門技能やコミュニケーション能力が求められる仕事は増えるが、工場のラインでの仕事や単純な事務作業は大幅に減るという。一方、労働力人口は225万人減ると分析。「(成長には)AIを使いこなす理系人材の育成が欠かせない」とする

「平成29年版 労働経済の分析」本文

「平成29年版 労働経済の分析」要約版

 

(4) 性的少数者の権利保障を=法律制定など提言-日本学術会議

日本学術会議の委員会は4日までに、性的少数者(LGBTQ)の権利を保障するため、差別禁止を盛り込んだ法律の制定などを求める提言を初めてまとめ、発表した。

提言では、民間機関の調査から日本の総人口の7.6%はLGBTQだと指摘。多くが生活上の困難を抱え、特に婚姻と教育、労働の分野での権利保障が急務だと訴えた。

提言全文(日本語)

 

(5) 過労死白書2017年版 :厚生労働省「電通事件で対策強化」

厚生労働省は10月6日、過労死や長時間労働の実態などをまとめた2017年版の「過労死等防止対策白書」を発表した。昨年に続いて2度目の公表となる今回は、人手不足が深刻な運送業に焦点をあてた。他の業種に比べて残業が多く、年末に仕事が集中して過労死を招きやすい実態を報告している。

白書は約380ページ。前回より100ページほど増えた。厚生労働省は「名指しはしていないが、電通の新入社員の過労自殺事件が過労死対策の強化につながったことについて、4ページにわたって触れた」としている。

2016年度に過労死や過労自殺(未遂を含む)で労災認定された人は191人。前年度より2人増えた。業種別では、運輸・郵便業の41人が最も多く、全体の2割強を占めた。製造業の35人、建設業の23人と続く。

白書は運送業の労働実態もまとめた。2016年12月~2017年2月にバスやタクシー、トラックの運転手約4万人にアンケートを実施(回答は4,678人)。残業が発生する理由を尋ねたところ、回答者の約3割が「人手不足」を挙げた。

人や物の移動が集中する12月に深夜労働や休日出勤が多いとする回答も目立った。翌年1~3月に労災認定につながる病気を発症する例が目立つと指摘、「12月の労働時間を減らして繁閑の差を縮めることが、過労死の防止に有効」と提言している。

「2017年版過労死等防止対策白書」(日本語)


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