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契約書が契約書でなくなる時
「この契約書は法的法的拘束力を持つ?」と問われたら、「サインがあるのだから有効」という答が一般的だ。
だが、ことはそんなに単純ではない。とりわけ、「サインしたから」が直ちに重要視されるわけではない日本では。
雇用契約書では、例えば法律に違反した条項が有効になることは決してない。
日本では、どんな契約書であってもそれが法律よりも重視されることはないのだ。
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雇い主が間違った場合
取り上げたケースでは、まず労働者が雇用契約書に記載されている日付が間違っているのを発見し、雇い主に連絡してこの間違いを指摘した。
指摘を受けた雇い主は、間違いを謝罪して手元にある雇用契約書は無視するように労働者に告げた。
そして新しい雇用契約書を作ってサインして、「間違いは直しました」としてこれを労働者に届けた。
労働者が受け取った二つ目の雇用契約書は、日付は修正されていたものの、月給が元々の25万円ではなく30万円となっていたのだ。労働者にとっては5万円得するものだった。
だが、月末に労働者の銀行口座に振り込まれた金額は25万円だったのだ。
二つ目の雇用契約書に書かれた、「あと5万円」はどこへ行ったのか?
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われわれの見解
ではこの労働者は会社に対して「30万円という金額を守れ」と求め、例えば裁判に訴えることは可能なのかどうか。
「それはやめたがいい」というのがわれわれのアドバイスだった。
確かに裁判の判決についてはいろいろな可能性が考えられ、労働者に有利な判決が出るかも知れない。だがしかし、その「可能性」のために多くの時間とお金を費やさねばならないのだ。
加えて、労総者と雇い主の双方がその雇用契約書にサインしたとしても、そのことだけをもってその内容全てが法的拘束力を持つということにはならない。
当初、労働者と雇い主とは月給25万円で―30万円ではなく―合意していた。これは重要なポイントである。
裁判になるとしたら、労働者はこう聞かれるだろう、「月給25万円で合意していましたよね?」
雇い主の側は、「日付に」間違いがあった最初の雇用契約書や、この労働者と同じ仕事をしている他の労働者の月給の金額などの証拠を簡単に提出できる。
だから、労働者と雇い主との間で「月給25万円」で同意があったこと、二つ目の雇用契約書が作成される以前にはこの点での食い違いはなかったことは明らかとなる。
かくしてこの「30万円」は書類作成者の単純な作業ミスとみなされ、これが判決となる可能性が高いのだ。
作業ミスによるものだとしても、この「5万円の差」に労働者が喜ぶのは理解できる。だが残念ながら、本当に「やった!」とはならなかったのである。
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