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あなたは賃貸借法で守られている
まず知っておくべきなのは、法はあなたの味方だ、ということである。
あなたが「会社のアパート」に住み、「賃貸借契約」を含む契約書にサインしていても、日本では法律は会社の規則より優先される。会社との契約書にサインしても、法的権利を放棄したことにはならないのだ。
会社がいかに大声を上げて脅そうが、「契約書」や「承認書」を何回振りかざそうが、法はあくまで法であり、日本の賃貸借法の効力は変わらない。
会社が用意した住居に住み賃貸契約を結んでいれば、あなたは法的には「店子」なのであって賃貸借法で守られている。
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追い出されるか、追い出されないか
まず第一に、賃貸契約書が結ばれていれば、何を言おうがあなたの会社あるいは大家(以降、「家主」)は思いつきであなたを追い出すことはできない。
だが、あなたの上司(「旧上司」である場合も)がとても頑固者で、加えて法律も知らずに自分の考えだけに基づいて他人をいじめるような人物だったとしよう。
この上司は、「会社は『合法的に』あなたを週末までに追い出すことができる」と主張する。
借地借家法はこの主張を否定している。
第27条第1項
建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から6月を経過することによって終了する。
家主は店子に対して、6か月間の退去通告期間を与えねばならないのである。
第30条が明記しているように、これは強行規定である。
加えて、この退去通告期間は解約の申入れの日から起算されるもので、遡及することはできない。
だが、賃貸借契約の解約の申入れを行なうだけで店子を退去させることはできない。
店子がこの解約の申入れを拒んだ場合には、家主には裁判所の命令が必要となる。
(注:民法第617条第1項は、家主は3か月の通告期間を与えればいいとしている。だが今回の場合には、借地借家法が民法より優先される。)
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家主 vs 店子
賃貸借契約については、店子及び家主のいずれの側も、いつでも、解約を申し入れることができる。
その際、店子及び家主の双方が解約の条件について合意すれば賃貸借契約の終了は可能である。
だが、店子の合意なしに家主が一方的に契約を終了させることはできない。
店子が退去通告を拒んだらこの通告は無効となる。
退去通告が行なわれた後であっても、店子が通告の期限日までに退去することを拒んだらこの通告は無効となる。
契約終了は、店子が合意するかもしくは裁判所が契約終了が有効であると認めた場合のみ有効となるのである。
こうした状況では(そして、調停の試みが不調に終わった結果)、「正当な理由」の原則によって、裁判所の命令のみが店子をその意思に反しても退去させることがでkるのだ。
(注:裁判所が家主が申し出た契約終了通告を有効と認めた場合には、店子側には退去を阻止する術はない。)
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正当な理由という原則
この「正当な理由」の原則は、賃貸借法の適用に当たって家主側の求めとその必要さと比較・検討するもので、日本の賃貸借法において非常に重要にして、かつ店子の擁護と退去防止の立場を鮮明にしている部分である。
店子と家主との間の従前の契約の経過、建物使用の条件、建物の状態、契約終了要請の理由などの全てが、賃貸借契約解消の「正当な理由」の有無を裁判所が判断するに当たって検討される。
例えば、店子が住んでいる建物が倒壊しそうである(経年劣化あるいは自然災害で)として賃貸借契約の終了を希望した場合、裁判所はそれが契約終了の「正当な理由」にあたると判断することとなるだろう。
もし店子がその住居を犯罪に関連した目的で使用していた場合にも、裁判所はそれが契約終了の「正当な理由」にあたると判断するだろう。
だが、「通告したから出て行け」という言い分は、家主がいかに大声でいったとしても、それは「正当な理由」の原則に基づく判断では「有効」とはなり難いだろう。
「それでも出て行かせたい」
以下は借地借家法第28条の全文である。
第28条
建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
この第28条が「転借人」についても言及していることに注目されたい。
この「転借人」には、第三者にアパートを「又貸し」している会社の当てはまる(例えば、アミティが従業員に行なっていること)。
「又貸し」をする会社に対して上記条文は、勝手に独自の規則などを作るのではなく法を遵守するように明確に求めている。
「でも会社のアパートなんだから」という主張は、どうやっても借地借家法から逃れることはできないのえある。
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もし追い出されそうになったらどうするか
最後に行きつく質問はこれである。:「(出て行きたくないのに)もし追い出されそうになったらどうするか?」
あなたがゼネラルユニオンの組合員であれば、組合に連絡して状況を報告して貰えれば、組合は支援が可能である。
もしあなたがゼネラルユニオンの組合員でない場合(真面目な話、いざとなる前に組合に加入されることを我々は呼びかける)でも、我々は支援に全力を尽くすが、我々は「安価に雇える弁護士」ではなく、また、在籍組合員への対応が優先されることはご理解頂きたい。
いずれにせよ、あなたは住まいから自主的に退去すべきではないし、会社や不動産会社の者があなたの住まいに立ち入ることを認めてはならない。
これは大事なことである。雇用契約書に何が書かれているかに関わらず、また、会社や不動産会社が何を言おうが、生死に関わる状況である以外、いかなる状況であっても、あなたの許可を得ることなしに誰もあなたの住居へは立ち入れないのだ。
居住者の許可なしに他人の住居に立ち入ることは明白な犯罪である(刑法などに明確な規定がある)。
あなたの許可がないにも関わらず誰かがあなたの住まいに立ち入ろうとしたら、「警察に通報する」と告げるべきである。
可能な限り電話にも出ないがいい。
会社が何をあなたに言ったか、どうやってあなたを脅したかを保存しておけるように、連絡は全てメールで行なうべきである。
賃貸借契約の終了には応じないこと、そして、店子の権利についてあなたが把握していることを会社に知らせることが必要である。
文章を書くに当たっては冷静かつ簡潔に。不適切な言葉を使ったり怒鳴り散らすような文章は自らの度量の狭さを暴露し、あなたに向けられる銃弾を自分で会社側に与えることになるからである。
可能であれば、家賃は払い続けること。
家賃の支払いができない場合には、建物の実際の所有者、不動産業者に連絡し、状況を伝えること。
それでも家賃の支払いができない場合には、支払いが必要になった場合に備えて家賃をあなたの別口座に入金(つまり、自分で自分に家賃を払う)し続けておくのがいい。
会社があなたの住まいからの退去、賃貸借契約終了の裁判所の命令を持たないならば(重ねて言うが、これらには6か月以上の期間が必要)、会社は犯罪を犯さない限りあなたに何もできない(そして、そんなことをすれば会社の立場はますます悪くなる)。
そして、これらがどれもうまくいかない場合には、本当の弁護士を雇うことである。
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終わりに
会社があなたを解雇し、続いてあなたを住まい(会社が「会社のアパート」と呼ぼうが)から追い出そうとした場合、あるいは、会社との契約が終了した後にそうしようとした場合、借地借家法第27条、第28条及び第30条は、この追い出しを阻止するのに役立つ。
家主があなたに出て行って欲しいと思ったならば、6か月の通告期間が必要となる。
そして家主と店子との間に合意が成立しない場合にはそれは裁判となる。
裁判になれば、家主は賃貸借契約の終了が「正当である理由」を示さねばならない。
家主が「正当な理由」と考えることが裁判所も「正当な理由」と考えるとは限らない。
家主(本稿の例では会社)が賃貸借契約を法に沿って終了させるには所定の手続きを経なければならない。雑音は気にしなくていい。
そういうわけで、判決を得るには家主は多くの時間、お金、労力を割かねばならない。「出て行け」と要求して言うことを聞かせたい、という会社の願望のように単純にはいかないのである。
借地借家法第27条、第28条及び第30条は確かに追い出しを阻む強力な武器ではあるが、しつこく追い出しにかかる家主に対して店子が対応する手段はそれだけではない。
例えば、賃貸借契約の期間の長さも是非の判断の要因に一つなのだが、こうしたことに関しては本稿では取り上げない。
つまり、家主は腹を立てて息を荒げるることはできるのだが、あなたがいる住まいを壊すことはできないのだ。
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* 本稿はごく普通にある賃貸契約に関するものである。何らかの事情で会社との間に賃貸契約が存在していない場合には、事情はもっと複雑になる。その際には弁護士との相談が必要になるだろう。
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