労組周辺動向 No.10 2017年6月2日現在

6月 3, 2017

ただ、民間試験を導入した場合、受験機会や評価の公平性を確保できるのかが焦点となる。年間の実施回数や試験会場数、検定料など、それぞれの民間試験の違いは大きい。地域や家庭の経済事情などで受験生の受験機会が狭まらないよう対応する必要がある。

「大学入学共通テスト」(仮称)の実施方針案と問題例はここで(日本語)。

 

2. 三菱東京UFJ銀行が契約社員に正社員と同一の食事補助支給へ

三菱東京UFJ銀行は、行員向けの食事補助について、正社員と非正社員を同水準にする方針を固めた。両者の待遇を近づける取り組みの一環。

経営側が5月19日、労働組合に意向を伝えた。従業員が本店や支店の食堂で昼食をとる時に、正社員は月に最大3500円の補助があるが、契約社員は対象外だった。今後は正社員と同額を支給する。食堂がない職場は正社員と契約社員ともに補助があったが差が大きく、今後は同水準にする。

三菱東京UFJ銀行の正社員は約3・5万人。契約社員は約9千人で、店舗の窓口業務や事務などを担う。職場では食事をともにすることが多いのに補助額が異なることに対し、改善を求める声が出ていた。政府が2019年度の施行をめざす「同一労働同一賃金」のガイドライン(指針)案では、非正社員にも正社員と同一の食事手当を支給するよう明記している。

 

3. パナソニックが12工場で「地域限定社員」:労働力確保へ600人目標、正社員への道も

パナソニックは、家電部門の国内工場で働く「地域限定社員」の採用を始める。2年半の有期雇用で雇い始め、その後、定年(60歳)まで働ける無期雇用に切り替える。これまでは、正社員では足りない工場労働力を派遣社員で補っていた。人手不足が進んでいるのを機に、労働力の囲い込みを図る。

限定社員は国内12工場で順次採用する。転勤は無い。限定社員の賃金は月給制とし、多くの手当などの福利厚生制度は、正社員と同じにする方向だ。定期昇給や賞与の有無など、詳細は調整中。昨秋、兵庫県内の2工場で先行的に採用し始めた。2019年3月末までに約600人の採用をめざす。いま働く派遣社員らも、本人が希望し、派遣元の会社が認めた場合、同じ工場の限定社員にする。優秀な限定社員は正社員に登用するしくみもつくる。

山形工場 (山形県天童市)/宇都宮工場(宇都宮市)/大泉工場(群馬県大泉町)/袋井工場(静岡県袋井市)/彦根工場(滋賀県彦根市)/草津工場(滋賀県草津市)/八日市工場(滋賀県東近江市)/神戸工場(神戸市西区)/加東工場(兵庫県加東市)/奈良工場 (奈良県大和郡山市)/福岡工場(福岡市博多区)/佐賀工場(佐賀県鳥栖市)

 

4. 裁判員候補3人に1人欠席=審理日数増、雇用情勢影響-制度開始から8年・最高裁

5月21日に制度開始から8年を迎えた裁判員制度で、選任手続きに呼び出された候補者の出席率は昨年、64.8%に低下し、3人に1人が欠席する状況となっていることが最高裁のまとめで分かった。「審理予定日数や非正規雇用者の増加などが影響している可能性が高い」とする民間機関の分析を受け、最高裁は対策を検討する。

裁判員候補者は選挙人名簿から無作為で抽出され、さらに対象事件ごとにくじで選ばれた人が選任手続きに呼び出される。「70歳以上」や「重要な仕事」など正当な理由があれば辞退できる。
最高裁によると、正当な理由を告げて手続きの当日までに辞退した候補者は、2009年の制度開始時は53.1%だったが、16年は64.7%に増加した。選任手続きへの出席率は83.9%から64.8%に落ち込んだ。

こうした事態を受け、最高裁は出席率低下などの原因分析を初めて民間のコンサルタント会社に依頼。5000人を対象に今年1~2月に行ったアンケート調査と各種統計データを基に検証した。
その結果、09年に3.4日だった平均審理予定日数は16年には6.1日に増えており、長引けば辞退率などが高くなる傾向が判明。アンケートで正規雇用者よりも参加意欲が低調だった非正規雇用者の増加の影響も「否定できない」とされた。

 

5. 勤務5年超で無期雇用転換、非正規の8割が制度知らず

非正規労働者が5年を超えて勤務すると正社員と同様に定年まで働けるようになる「無期転換ルール」について、非正規の85.7%が制度の存在や内容を知らないことが5日、民間会社の調査で分かった。このルールは非正規の雇用安定を目的に来年4月に始まるが、当事者に十分浸透していない実態が浮き彫りになった。

ルールは2013年4月施行の改正労働契約法に盛り込まれた。非正規労働者は同じ会社で契約更新が繰り返されて通算5年を超えた場合、本人の申し込みに基づき正社員と同じ契約更新の必要がない「無期雇用」として働けるようになる。一般的には企業の中核を担う正社員ではなく、職種や勤務地を定めた限定正社員となるケースが先行導入した企業では多い。

調査は3月、同じ勤務先で6カ月以上働く20~40代のパートやアルバイト、契約社員の男女679人と、従業員30人以上の企業の経営者、人事総務担当者554人にインターネットで実施した。

ルールを「知らない」と答えた非正規は58.6%で、「内容はよく分からない」は27.1%。「内容も理解している」は14.3%だった。

一方、企業側は71.7%が「内容も理解している」と回答。「内容はよく分からない」は21.5%で、残りは「知らない」と理解不足の企業も目立った。雇用している非正規への周知・説明を「すでにした」のは48.2%にとどまり、「これからする予定」は38.6%、「予定はない」も13.2%に上った。

 

6.  小学校の英語は2018年度から時間を増やし、3・4年生は前倒し実施

文部科学省は5月26日、2020年度から実施される次期学習指導要領で小学校の英語が拡充されることに備えて、「2018年度からの2年間を移行期間と位置づけ、英語の授業を前倒しで増やす」と発表した。3年生から6年生まで年間15コマずつ増やし、時間確保のためには「総合的な学習の時間(総合学習)」を振り替えることを認める。

2020年度からの新指導要領では、英語に親しむための「外国語活動」の開始を現行の小学校5年生から3年生に早め、年間35コマをあてる。また、5年生と6年生では教科書を使う正式な教科の「外国語科」となり、授業時間は現行の35コマから70コマに倍増させる。

こうした変化にスムーズに対応し、中学校の新しい指導要領にも対応できるよう、来春から授業時間を増やす。中学年ではアルファベットや外国語のリズムに慣れてもらい、高学年は外国語の簡単な読み書きや会話を教える授業を行う予定で、教材も文科省で開発中という。

一方、授業時間が全体として増えることを避けるため、現状は年間70コマある総合学習を55コマまで減らし、その分を英語にあてることも認める。文科省によると、国語や算数など教科書を使い、学ぶ範囲が決まっている教科は減らすことができないため、「各学校で目標を決める総合学習を弾力化するしかない」との判断からだ。

2020年度から新指導要領が全面実施されると、英語の授業時間はさらに増えるが、文科省は学校現場の負担増への対応策を打ち出していない。このため、長期休暇を短くしたり、1日の授業時間数を増やしたりする必要もありそうだ。教員の長時間労働が既に問題となっており、議論は不可避となる。

 

7. 解雇の金銭解決制度:「労働政策審議会でさらに検討」という報告

5月29日、厚生労働省の「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」 は、裁判で「解雇無効」などとされた労働者を企業が一定の金額を支払って解雇できるようにする「解雇の金銭解決制度」について、「労働政策審議会で、さらに検討を深めていくことが適当」とする報告書をまとめた。厚生労働省は今後、民法や民事訴訟法の専門家を加えて検討の場を設け、年内には労働政策審議会で労働契約法、労働基準法の改正議論を始めたい考えだ。

同じ5月29日、連合は「現行の労働審判制度が有効に機能しており、労働政策審議会で検討する必要性はない」として、菅義偉官房長官に「不当な解雇を拡大しかねない」として制度を導入しないよう求める要望書を提出した。

報告書は労使双方の意見を踏まえて制度への賛否を併記したが、制度の必要性について「労働者の多様な救済の選択肢の確保等の観点からは一定程度認められ得る」とした。使用者からの申し立ては「現状では容易でない課題があり、今後の検討課題」とした。

「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」報告書(案)はここで(日本語)。

 

8. 2016年決算に見る「上場3,079社の平均年間給与」調査:東京商工リサーチ

2026年(1~12月)の上場3,079社の平均年間給与は前年より63,000円(1.0%)増え、605万7,000円だった。2011年の調査開始以来5年連続の増加で初めて600万円台に乗せた。

業種別で、最高は金融・保険業の702万9,000円で、唯一700万円台に乗せた。次いで、建設業の671万9,000円、不動産業の663万7,000円、電気・ガス業の658万6,000円と続く。最低は6年連続で小売業の500万円で、金融・保険業とは1.4倍の差があった。業績が好調な建設業、不動産が順調に上昇し、東日本大震災以降、減少が続いていた電気・ガス業は初めて増加に転じた。

個別企業の平均年間給与では、M&A助言会社のGCA(2,139万6,000円)がのみが2年連続の2,000万円台。一方、500万円未満も723社(構成比23.42%)あり、上場企業の平均年間給与は二極化が拡大している。

国税庁が公表した「平成27年分民間給与実態統計調査結果」によると、2015年の平均年間給与は420万4,000円(正規484万9,000円、非正規170万5,000円)で、上場企業の平均年間給与と1.4倍(185万3,000円)、正規社員ベースでも1.2倍(120万8,000円)の開きがある。

政府や経団連が企業に賃金引き上げを要請し、上場企業の給与は上昇している。だが、業種間で格差は拡大し、また中小企業との給与格差も縮まる兆しはみえない。

国税庁:「平成27年分民間給与実態統計調査結果」はここ(日本語)。

同調査概要はここ(日本語)。

 

9. 厚生労働省、残業規制法案を秋に国会提出

政府が導入を目指す「残業時間の罰則付き上限規制」の法制化について議論している厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会が5月30に日開かれ、労働基準法など関連法の改正案を早期に国会に提出するよう厚生労働省に求める報告書案が示された。分科会は6月上旬にも報告書をとりまとめる。厚生労働省は法案作りに着手し、今秋の臨時国会に提出する方針だ。

労働政策審議会 (労働条件分科会)はここで(日本語)。

 

10. 求人倍率はバブル期超えるが消費に寄与せず

厚生労働省が5月30日に発表した4月の有効求人倍率(季節調整値)は1.48倍となり、19901年7月に記録されたバブル期の最高(1.46倍)を上回った。

一方、総務省が同日発表した4月の1世帯(2人以上)当たりの実質消費支出は前年同月比で1.4%減少し、14カ月連続のマイナス。雇用情勢の改善が消費につながらない状況が続いている。

その理由としては、収入の伸び悩みが挙げられる。厚労省の毎月勤労統計調査によると、賃金の伸びから物価変動の影響を差し引いた実質賃金は2016年10月から低迷が続き、3月は前年同月比0.3%減と落ち込んだ。原油高を受けた消費者物価の上昇に加え、賃金が低いパートタイムが増えていることも、実質賃金が伸びない要因となっている。

総務省の労働力調査によると、4月の正社員は前年同月比14万人増の3,400万人、非正規社員は33万人増の2,004万人。増加幅は非正規が正社員を大幅に上回った。人手不足感が強まる中、一時は非正規を正規に切り替える動きも出ていたが、こうした動きは2017年に入って弱まっている。

雇用の改善ほどには景気回復を実感できない状況が今後も続く恐れがありそうだ。

総務省統計局:家計調査(二人以上の世帯)2017年4月分速報(日本語)

総務省統計局:労働力調査(基本集計)2017年4月分(日本語)

総務省統計局:労働力調査(基本集計)2017年4月分結果概要(日本語)

 

11. 長時間労働是正へトラック待機時間の記録を義務付け-国土交通省

5月31日、国土交通省はトラックドライバーの長時間労働を改善するため、荷主の倉庫での荷積みや荷降ろしなどにかかった待機時間を乗務記録に残すよう、運送会社に義務付けると発表した。荷主の都合によるこうした作業は、ドライバーの長時間労働の一因になっている。これにかかった時間を正確に把握し、対応を促すことで是正につなげる方針だ。

貨物自動車運送事業法の規則を改正し、7月1日から義務付ける。過度に長時間に及ぶ荷主に対しては、国土交通省が同法に基づく勧告を行う。

 

12. LGBTQ:札幌市、6月1日からカップル証明―政令市で初

札幌市は、LGBTなど性的少数者のカップルをパートナーとして公的に証明する「パートナーシップ宣誓制度」を6月1日から開始する。希望するカップルが「宣誓書」にサインして提出し、市が引き換えに受領証と宣誓書の写しを交付する仕組みで、全国では6例目、政令指定市での導入は初めてとなる。

同市によると、受領証や宣誓書を活用することで、これまで困難とされた生命保険の受け取りや住宅入居時の手続き、携帯電話割引サービス、入院時の面会などが利用しやすくなるという。

申請できるのは、双方が20歳以上▽市民か今後転入予定▽双方に配偶者がいない--などの条件を満たしたカップル。宣誓書へのサインなどの手続きには市職員が立ち会うが、希望すれば人目に触れない別室で対応する。申し込みは市男女共同参画課(011・211・2962)。

また札幌市は1日から、市内に住む性的少数者の電話相談に応じる「LGBTほっとライン」(011・728・2216)を開設、毎週木曜日午後4時~同8時に対応する。

札幌市男女共同参画についてはここ(日本語)。

 

13. 非正規雇用の弊害:福岡県の複数の中学が、技術、美術の教員がいないために2ヵ月授業ゼロ

福岡県内の複数の中学校が、技術や美術の教員がゼロのまま新学期を迎えたことが分かった。始業から2カ月近く経過しても確保できず、授業ができない学校も。授業数が少なく非正規雇用が多いため、なり手が敬遠する傾向があるとみられる。県教育委員会は「何とか年度内に確保し、学習指導要領上の授業数を行えば生徒の進級に問題はない」としているが欠員はここ数年、慢性化しており、学校現場では不安が広がる。
を抱える。

昨年度は、これらの授業を教員採用試験に合格していない講師が受け持った。本年度も3月下旬の人事異動内示で、技術教員が確保されないことが判明し、校長の呼び掛けで各教員が探し始めたが見つからずじまい。授業時間はやむなく、家庭科で埋めている。「いつから授業するの?」。生徒からそんな声も上がる。「必要な教員を確保するのは本来、県教育委員会の役割。しわ寄せが現場に来ている」。教員の一人は不満を隠さない。

別の中学校も年度当初、美術の教員が不在。退職者などのつてを口コミで頼り4月中に見つけ出したものの、教員免許の期限が切れていた。本人は「失効を知らなかった」。免許の更新まで1カ月以上、待った。

県教職員組合によると、同様の欠員状態はここ数年の傾向という。ある中学校では昨年度、美術の授業を始めたのは6月ごろ。期末試験を遅らせたものの採点が間に合わず、1学期の生徒の通知表は美術の評価が空白だった。

学習指導要領に定められた授業数は、英語などが週に4こま(1こま50分)であるのに対し、美術や技術は週1こま程度。こうした専門教員は小規模校ほど受け持つ授業数が少なくなるため、非正規雇用になりがちという。結局、講師が複数校の授業を掛け持ちするケースも少なくない。

学校現場は大量定年時代を迎えており、他の教科でも教員不足が続く。県教育委員会は昨年度、教育職員免許法に基づき、ある中学校で専門外の教員に臨時免許を与え、技術の授業を乗り切った。教員の一人は「専門外の人では、まともな授業は難しい」と批判する。

県教育委員会教職員課は「不安定な非正規雇用を避ける人も多いとみられる。今後はこうした教科でも正規採用者を増やす」としている。


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