A―インタラックとNOVA両社の対立で、札幌市のALT入札が破綻
札幌市教委は、英語指導助手【ALT】のうち35名を適法な直接雇用で継続しながら、何故か65名は外部業者に請負わせ、「委託」してきた。学校教育法で、教委や学校に指揮管理や教員免許が必要であり、「直接雇用にすべき。ALT委託は違法」との【文科省平成21年8月28日発・初国教第65号通知】に従わず、委託=派遣法違反を繰り返してきた。
ところが、2016年3月の入札で「インタラック北日本」の応札価格が高すぎ市の入札予定価格を上回ったため、同社は失格となり、低価格で応札したNOVAホールディングスが落札した。折しもこの春、「委託容認を狙った、インタラックから遠藤大臣への不正政治献金口利き疑惑」が連日報道され、衆議院でも追及されていたこともあり、それが「失格理由か?」との見方もあるが、市教委とインタラックはそれを否定している。
落札したNOVAは、ALTビジネスへ参入して日が浅く、大急ぎで講師を集めることとなり困難を極めた。そのため、直営の駅前留学校からの転勤どころか、関東・東海・関西からの転勤と転宅まで実施した。それでも足らない中、春まで市教委へ派遣され3月で契約が終了していた元インタラック講師の多くが、ALT復職を望んで落札したNOVAへの応募を行なった。NOVAはこれを受入れ、市教委での就労の雇用契約を締結し、「講師が揃った」旨の報告を市教委宛に行なった。市教委も4月18日には、NOVAの講師を集め、市立各校との合同で、学校説明会を開催し、ALT業務がスタートしていた。
ところが、NOVA本社のゼネラルユニオンへの回答書には、5月2日の授業開始直前、「インタラックから転職し、採用済の13名の講師から、4月21日、突如、契約辞退のメールが、NOVA宛に一斉に届いた。同時かつ同じ文面であり、某社に対しては、当社として法的措置も、」と記載されていた。NOVAは、インタラックからの不当な報復で講師を奪われ、入札不履行となったとして、裁判も検討しているようだ。
B―札幌市の硬直した「入札解約決定」で274校授業停止、ALT百余名が失職
NOVAは市教委に欠員を報告後、「追加募集しているので、5月中旬まで待ってほしい」、「とりあえず、採用し届出済の講師だけでも、先に就労させてほしい」など要請したが、すべて市教委に拒否され、授業4日前の4月28日に市から契約解除されたという。
以前、大阪府教委でも同様の講師不足事件が起きたが、府教委は「すでにECCから来ている講師はすぐ就労してもらう。ECCは、あとの補充を急ぐこと」として、授業中止を回避した。今回、ゼネラルユニオンは市教委にそれら解決策を示し、また「入札破綻を繰返さないためにも、市教委の緊急直接雇用によって授業の停止と雇用破壊を避けてほしい」とも提案したが、ことごとく無視された。
結果、5月2日より274の小中学校もの授業停止が長期化し、数えきれない両社の元ALTらが現在に至るまで路頭に迷うなど、前代未聞の事態となった。この市の判断は、業者任せの入札に固執し、生徒・保護者・講師不在の致命的誤りであった。ゼネラルユニオンは、5月30日の市教委との団体交渉時に問いただしたところ、「市長、教育長の承認のもとに決定した」と、トップの判断であったとの回答であった。
C―入札条件不履行で、札幌市がNOVAから2400万円の罰金を徴収
この混乱のさ中の5月2日、市教委はNOVAを呼び出し「入札条件不履行なので、契約価格の10%をペナルティとしてー市に納入すること」と文書で督促した。NOVAはやむなく、半月後、約2400万円を市に支払った。これが入札規則で、市の「雑収入」かもしれないが、不祥事の責任は両社だけでなく市にもあり、こんな大金があるなら、授業を提供できなかった生徒たちや生活破綻に追い込まれた両社の元講師への緊急支援に回すべきであろう。
D―「緊急直接雇用で即刻授業開始を」との声を無視し、あわてて異常な「再入札」へ
市教委は、直接雇用もせず、あろうことか5月11日に再入札を公示した。インタラックがNOVAの講師を4月21日までに引き抜いて落札を妨害したかのかどうかは今後の両社間の裁判に委ねるとして、不可思議なのは、再入札開始公示のずっと前である4月末から5月初旬にかけて、インタラック北日本が、元インタラックや元NOVAの講師たちに「またインタラックがやることになったので、再契約を」との働きかけを一斉に行なったことである。元講師たちがその結論を市教委に確かめに行ったところ市から「その通りだ」との回答を得た、との報告も届いている。【入札前に、どんなやりとりがあったのか、現在インタラックや市教委に対して事実確認中です】
自ら招いた授業停止の混乱中であったとしても、市教委は直接雇用を拒否し、間接雇用のリスクに懲りずに再入札を発動。しかも、その公示・入札・審査の手続きも無視し、その手続以前に落札予定者を伝えていたとすれば、これはまぎれもない不正入札で、重大な法違反である。ゼネラルユニオンの市教委からの聞き取りによると、「入札期間は普通40日間であるが、緊急事態なので10日間にした」、「総合評価型入札なので委員による公正な審査が必要だったが、緊急事態なので開札日当日に2時間で即決した」などと、すべてが異様な入札であったことが明らかになった。
E―NOVAは、駅前校への再雇用はかるが、補償不十分。差別規則でアジア人講師を排除
NOVAは、札幌市で働けなくなった講師への補償として、「契約金5万円と、契約解除5月9日までの実働3日分賃金を補償。異動扱いせず、解雇―再契約」と、ユニオンに回答してきた。いかに緊急事態だとしても、解雇手当もなく解雇し、二度の引越しを余儀なくされた講師たちに、賃金3日分のみ、というのはおかしい。失業期間の完全な補償が必要である。
市教委ALT勤務がなくなったフィリピン人講師たちは、「ネイティブに限る」としたNOVAの差別的社内規則のために、他の講師のように札幌のNOVA駅前校への転籍が認められなかった。英語が母国語であり英語教育の経験も豊かでありながらアジア人であるために解雇される、というのは、あってはならない差別である。ゼネラルユニオンは現在、人権無視の人種差別ー国籍差別規定の撤廃を、NOVAに勧告している。
F―市教委の同じ仕様書・労働時間なのに、社会保険はNOVAが加入、インタラックは拒否。
学校時間割通りだと、保険加入どころか「市のサービス残業代未払」の労基法違反にも
NOVAに転職した講師は「インタラックに戻る条件のほうが、月2万円高い」と説明された」とのことである。2017年から、従業員501人以上の保険加入は、改めて義務化もされた。異常なのは、市教委が入札で各社に公示した同じ契約と労働時間でありながら、「NOVAは社会保険付きなのに、インタラックの提示は社会保険非加入」であった。
この点ではNOVAが適法で、インタラックは違法となる。札幌市の入札仕様書によると、ALTの就業は午前8時半から午後4時15分までで、団交での市の説明では、休息の45分も「給食指導」とかで勤務に含まれる。まったく同ケースのインタラックALTが訴えた訴訟で、東京地裁は「週29.5時間の実態は35-40時間だ」と認定し、「授業と授業の間は、休憩でなく、教材準備や跡片づけや教室移動などであり、すべて労働時間である」との確定判決【2015年3月20日行ウ70】をなし、国【年金機構】がインタラックに保険加入を命令している。札幌市教委の7時間45分も、堂々たるフルタイム長時間労働であり、強制保険加入や時間外支払は義務である。
インタラックは、それを承知しながら雇用契約を週29.5時間とし、保険加入を否定している。でもこのような二種の労働時間を放置するなら、週29.5時間以上の時間割は市教委による時間外労働未払、という労基法違反になってしまう。ALT「委託」は違法派遣であり、学校教育法と、職安法・派遣法にも抵触する。全国各地の労働局などでインタラックは、派遣法・職安法などの各法令違反の処分を受けてきたが、札幌市教委も、契約当事者で派遣先【団交義務も有】として、労働法違反で告発される可能性が高い。
G―札幌の教訓=委託・派遣入札は無責任で必ず破綻。今すぐ継続可能な市の直接雇用を
5月以降、北海道新聞・ジャパンタイムスなどの新聞各紙、HTVなどのテレビ各局が一斉に報道を続けているが、「授業停止で怒る保護者」、「翻弄され、路頭に迷う講師たち」などの報道が目立ち、何れも「直接雇用しかない」との常識ある論調で一致している。
今回の事態には、「ALT業界参入争い」の面もあるが、驚くべきは、入札時点では業者は予め講師を抱えてはおらず、「落札後からGaijinPotなどのWebやインターネットで内外で大募集を開始している」ことである。今回の両社も、就労予定日間際まで日本全国のみならず、海外でも緊急募集していた。採用してすぐ、来日してすぐでは、選考もビザも研修もあったものではない。委託、いや、派遣法の派遣であっても、このリスクと入札破綻はさけようがない。ましてや、札幌のような多くのALT募集は、大手業者であっても制度上困難であり、入札も競争や審査にならない。
やはり、ALT教育の質向上や経験の蓄積や安定した授業の継続を考慮すると、教委の直接雇用しかありえない。札幌市の入札破綻を他山の石として、未だ違法なALTの委託や派遣を続けている一部の教委に猛省を促したい。札幌市も、全国で直接雇用している自治体に学んで、自らALTを採用・研修し、継続可能かつ良い語学教育の経験を積み重ねていかねばならない。