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ある経営者が自分の権利を濫用してあなたを解雇することを考えているとしよう。そして、経営者の不当労働行為に反撃する(あるいは、厄介な「組合」や不都合な「法」を関与させる)ようなことを実行する考えを押さえつけるのにあなたの「職務規律違反」は十分だ、というのがその理由であるとする。
外国だと、その脅しの威力は倍にもなることもある。中間管理職の怒りを買うと、従業員は職を失う危機に曝されるだけでなく、家も失い、果てはその国にいる権利さえ失いかねない。
「言う通りに違法なことをやれ。さもなければ日本から出てゆけ」と選択を迫られた時、そのいずれかしか選べないんのだとしたら、結論は明らかである。
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報復への恐れから匿名の形で、ゼネラルユニオンへ違法な契約への苦悩を綴った連絡が寄せられた。会社の名前も、問題の条項のコピーも付けられてはいなかった。
延べられた状況は以下のようなものである。
「私はとても小さな英会話学校(従業員は全体で10名程度)で働いています。ここで働き始めた時私は契約書にサインしました。その契約書には、『辞めた場合、契約書にサインした日から数えて5年間は、同じ市内で自分の学校を開業しません』という競業避止条項がありました」と。
ゼネラルユニオンは、長年の活動の中でいくつかの「競業避止」条項に遭遇した(そのほとんどは違法だった)が、この競業避止条項は珍しいものであった。
5年間は、同じ市内で自分の学校を開業してはならない? これは、個人授業も含むものと考えられる。この条項には何らかの法的根拠はありうるのだろうか?
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答を求めて、我々は弁護士に聞いた。以下が教えられたことである。
「職業選択の自由は憲法に保障された権利であって、雇用主がこれを侵すことはできない。裁判所がこのような競業避止を有効と認めるのは、労働者が本当に自らの意志に基づいて、正当に契約にサインした場合のみである。」
この「憲法に保障された権利」は日本国憲法第22条で以下のように謳われている。
「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」
加えて、労働基準法第6条(中間搾取の排除)は以下のように述べている。
「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。」
従って、重ねて述べるが、契約書の中に脅し文句以外ではないいくつかの言葉を並べた一文を入れるだけで、会社が、が他人が会社(学校であれ英会話教室であれ、何であれ)を開業することを禁じることはできないのである。
このシリーズのPart 3で述べたが、契約書の中に書いた、というだけで、それが実現されるということにはならない。
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議論を進めるために(そして、コインの裏側をもう少し詳細に見てみるために)、契約やその条項から離れて、ある会社が「競業避止」についての合意を正しいやり方で目指すと決めたとしよう。
以下がそのシナリオである。
あなたは会社に退職届を提出する(覚えておられるように、退職する意向を会社に表明した2週間後に)。
あなたは事務所に呼ばれて書類を渡される。
その書類は、競業避止及び機密保持に関する合意書である。
その書類には以下のように記されている。「Xの期間、あなたは当市内で同業種の学校、事業を始めてはならない」。更に、「退職する本社での勤務中に取得した資料や授業方法などを一切使用してはならない」。
この競業避止合意書には法的拘束力があるのだろうか?
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当然、ますはこんなものにはサインしないことである。
あなかが、自分の目の前に置かれた書類は印刷する価値すらないものだと見做し、間もなく辞める会社が法的対抗手段を取ってもそれは無意味だと判断すれば、会社はあなたが辞めることを止めることはできない。
また会社は、あなたが会社の資料を盗んだり、その会社だけが行っている「特別」で「独自」な方法を使うことを阻む権利は持っているが、フラッシュカードのような、すでに確立されている方法を用いるのを阻むことはできない。
結局、会社は極めて勇敢になって「フラッシュカード読みは自分達が発明した」と主張しなければならなくなる。
これが考えるべきことの一つである。
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その他の点についてはどうか?
契約に署名した時点、あるいは契約が終了した時点からX年間は競争対象となる会社を設立してはならない、という点については?
あなたがこのとんでもない会社とその馬鹿げた規則から喜んで離れて同一市内に競争対象となる会社を設立することはどうか?
以下が弁護士が我々に話してくれたことである。
「その合意書の法的正当性は以下による。(1) その合意は、その(前)雇用主の利益をどのくらい保護すると考えられるか、(2) その合意の結果、その(前)従業員はどのくらいの損害あるいは不利益を被ると考えられるか、(3) この(前)従業員の損害は、同意書全体によってどの程度補償されるのか(つまり、退職時の措置全体はその損害をカバーするのか?)」。
会社が、従業員が被らざるを得ない不利益に対する補償を提供しないのであれば、「X年間の競業避止」同意書は違法で無効なのである。
会社が裁判の中で「競業避止同意」を有効なものとしたいのであれば、これによって前従業員が被る損害を充分に補償したということを示さねばならないようである(憲法に保障された権利との関係で)。
つまり、である。もしあなた(従業員)が競争対象の会社を設立しないことに同意してくれれば、われわれ(雇用主)は、与える損害についてこうやって補償します、と。
古くからある言葉、「魚心あれば水心あり」である。もしこの同意書が雇用主の側だけに有利なものであれば、それは無効なのだ。持ちつ持たれつの同意書であれば、裁判でも有効だとされるかもしれない。
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最後に、他の点も詳細に見てみよう。「5年間」という長さは法的にはどうなのだろうか?
弁護士によれば、
「競業避止条項に関して、5年間という期間を設定している例は見たことがない。労働問題に詳しい学者によれば、最長で1年間ということである」。
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万事そうだが、経過が問題である。
あなたが会社を辞める前に、自らの意志で会社との間で競業避止同意書にサインし、あなたが同一地域に競争対象となる会社を設立しないことと引き換えに、契約解除にあたってそれなりのものを提供したのであれば、そして、もしあなたがその会社を辞めた直後にその受け取ったものを使って新しい会社を開くならば、法的な問題になる可能性がある。
だが、もし会社がその競業避止条項を契約の中に入れたとすれば(恣意的な期間付きで)、その競業避止条項は大方が無効なものであって、あなたが無視すると決めれば会社がそれを強いることはほとんどできない。
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違法な契約条項で問題をお持ちで、我々に見て欲しいとお思いであればメールで(可能であればその条項の写真も!)お送りください。
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