松下電器の偽装請負を撤回させ、まともな雇用を実現

Oct 13, 2006

 海外進出の草分けとしての松下は、戦後まもなくから、大阪・東京の研修センターで、多くの外国人スタッフを抱え、来日技術者や海外転勤者らへの教育などをさせてきた。現在の松下は、大量人員整理が成功?し、大儲けしているが、リストラの嵐が吹荒れていた当時【02年5月】、ゼネラルユニオンの松下電器支部が、30数名の有期講師で結成された。「非正規の月収の15%カット」が突然通告されたからであり、それへの反撃を軸に22項目の要求が、中村邦夫社長宛に提出された。ところが、驚くべき拒否回答が来た。  

すなわち「契約が雇用でなく、委託【請負】なので、労基法・労組法・雇用保険・社会保険の法的義務はない」という内容であり、「講師は一人親方で、労働者でない」という、信じられない想定外の開き直りであった。組合員たちは、「我々は、松下に就職した『労働者』だ。何故『下請け』なんだ」「松下に採用され、松下の言う通りに働いてきた」と、寝耳に水の発表にあきれるばかりであった。

 

「雇用か、委託=請負か、攻防戦が火ぶた」   

誰一人として、「請負である」との説明を、これまで聞いた者はいなかった。よく契約書を読み直すと、雇用とも請負とも明記されていない。この区別の判断は、署名させられた契約文章ではなく、「業務の指揮管理権がどちらにあるか」という「実態判断」で決まる。ただ松下も、あまり一貫性がなく、自信もなかった。さらに、ゼネラルユニオンの剣幕に押されてか、「団交はできないが、交渉には応じる」という態度であったため、松下社内は「雇用かどうか、労働者かどうか」で、労資が怒鳴りあう攻防の場となった。  

労組からは「雇用の動かぬ証拠」として、【①契約の英語翻訳にEmploymentと明記 ②社員証交付 ③従業員としてビザ申請 ④定年がある ⑤松下が作業内容や査定を決定】などの証拠を突き付け、雇用である労働実態を鋭く指摘した。  松下側は【①契約書に雇用と書かず、収入は報酬と表記。②源泉徴収はせず ③本人の要望に添って、クラス担当を決定 ④指揮や拘束は通常の注文程度】などと反論したものの、「雇用的委任?」だ、との苦しい弁明まで持ち出した。   このままでは、「団交拒否」で松下が訴えられ、労働委員会が「不当労働行為救済」で、労働者性を認定する。加えて、源泉徴収をしないことが国税局に漏れれば、大きなスキャンダルになる。何れにしても、松下が負けるのは確実視された。そこで松下は、02年7月に、ユニオンの諸要求を受諾。さらに03年4月、年間15%のカットを復元し、ユニオンを通じて、全組合員に支払った。そして、委託=個人請負がなくなるかに見えた。

 

「続く松下の抵抗。06年秋に完全雇用を実現」  

しかしその後も、松下電器、そして関連子会社は、「請負」に未練を持ち続け、雇用への切替を履行しなかったため、やむなく第二次争議が再開された。怒ったゼネラルユニオンは、ついに「年休の申請運動」に踏みきり、当然ながら、労基署に「労働者性あり、年休拒否は違法」の命令を出させた。それでも会社は当初、「生活依存度の大きい、常勤だけ雇用にする」としたため、このパート差別で再び紛糾。06年夏になってやっと「非常勤も雇用に」と認めたため、この度やっと基本合意を見た。    

しかし労組は追撃の手を緩めず、「これまで雇用を否定してきた責任と賠償」問題の団交が続いた。組合員には、日本語講師の日本人女性もいるが、勤続30年の外国人講師もいる。年休なし、のみならず、健保や年金もない、長期の不安定な生活を、余儀なくされてきたのである。 そして06年9月、とうとう、「全員を雇用とする。勤続年数を踏まえた年休をさかのぼって支給。過去の不利益も償う」という趣旨の労資協定がかわされ、4年間もの長い、「労働者として認めさせる、雇用への闘い」が、ゼネラルユニオンの完全な勝利で解決した。しかも注目すべきは、外国人講師の決起から始まった闘いが、日本人講師の労組加入に拡大し、争議で獲得した「雇用」は、研修部門のすべての非正規の仲間に適用される、という成果と、運動の拡がりが、実現したのである。会社幹部は言った。「新聞報道で請負が大問題になる直前に、労組の指摘で改善していて助かった。ホットした」と。  

どう違う 「雇用・派遣・請負」   「非正規雇用でさえ否定」究極の雇用破壊  

 

企業内の直接雇用を嫌って、アウトソーシングで、労働力を外注する際、 派遣と請負が考えられるが、同じ派遣元業者が両方の送出しをしている場合が普通である。派遣では、その仕事の「指揮管理権」が派遣先【松下など】にあり、請負【=委託・委任・下請】は、派遣元業者側にその権限―義務がある。  偽装、であるが故に、契約書の文言は関係なく、「就労指揮の実態判断」で決定される。報道されつつある松下やキャノンの法違反は、構内下請け会社と「請負」で契約しながら、松下やキャノンの指揮のもと、社員と同様の仕事をさせてきたのが派遣法違反に問われた。  

ゼネラルユニオンのケースは、松下が、請負会社相手でなく、一人一人の労働者を事業主にする、「個人請負」に偽装していた。何れの場合でも、松下側の、労働法や社会保険の義務をなくし、何時でも契約解除できることを狙った偽装であった。本来、松下が全責任を負う「直接雇用」をすべきケースである。ザル法で有名な派遣法であるが、その「派遣期間終了後、派遣先の直接雇用義務条項」さえ嫌悪する。雇用でも派遣でもない、労働者性否定の請負が横行する理由がここにある。

 

雇用の場合 [指揮] 雇 用 主 → 雇用 → 労 働 者

請負の場合     委託元会社 → 請負 → 個人請負 [指揮]

二重請負の場合     委託元会社 → 請負 → 請負会社 → 二重請負 → 個人請負 [指揮]

派遣の場合 [指揮] 派遣先会社 ← 派遣 ← 派遣元会社

 

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